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執筆者の写真ミウラ

脳のケア⑥—アロマで認知症が予防できる?


シニア世代になると目に見えて弱るところがいろいろありますが、感覚器官の機能が衰えることは知られています。最もわかりやすいのは老眼や難聴でしょう。

③でも聴覚の衰えと脳の関係のお話をしました。


神経科学の研究が画期的に進んだことで、こういった感覚器官と認知症との関連性については、さまざまな研究が行われています。

レッスンでも度々話しますが、ヨガや瞑想ではさまざまな感覚器官を意識的に感じることを促しますね。それは脳内の神経細胞を刺激し、脳を活性化させるためでもあります。

とりわけ、五感の中で嗅覚の研究分野では、認知症の治療や予防に関わる明るいニュースがあります。

以下は、かつて2021年1月のブログで書いた記事をもう一度、脳の特集にてご紹介します。


2004年に嗅覚受容体の存在が証明されてから、嗅覚の研究が著しく発展しています。

アロマの香りが大脳の嗅神経を直接刺激するため、認知症の治療と予防に効果があることがわかってきたのです。

脳内の話ですから少し難しくなりますが、知っておいて損はないと思います。



精油(エッセンシャルオイル)の芳香成分が私たちの体に吸収されるには、主に3つのルートがあります。

ルート1 鼻から脳へ

ルート2 肺から血液を通って全身へ

ルート3 皮膚から毛細血管を流れる血液を通って全身へ


この3通りのルートから、アロマの有効成分は体内に入り、自律神経や内分泌系に働きかけて心身のバランスを整えてくれます。

中でもルート1は、鼻からダイレクトに脳内に伝達されるので、アロマテラピーにおいては最も重要なルート。認知症の治療や予防に効くとされるのは、アロマの香りが脳内の扁桃体や海馬などにダイレクトに刺激を与えるからなのです。   


<香りが鼻から脳に伝わるメカニズム>

精油の香り成分が鼻の奥に入ると、その情報は電気的な信号に変わります。嗅神経に伝わる信号は脳に送られ、視床と大脳辺縁系に流れます。

情報は二つの方向に分かれ、一方は視床下部を経て大脳皮質の嗅覚野で「におい」として認識されます。アロマの香りが視床下部に働きかけることで、自律神経やホルモンのバランスを整えることができるのです。 もう一方は、情動反応を起こす扁桃体や、記憶を司る海馬のある大脳辺縁系につながります。 香りを嗅いだ時に、扁桃体では快・不快の感情などが刺激されたり、海馬では香りに関わる懐かしい記憶が甦ったりして、嗅覚からの経路は、精油の効能が脳内にダイレクトに影響を及ぼすことがわかっているのです。 イライラした時や、疲れた時に好きな香りを嗅いだら気分がすっきりしたり、リラックスできるのは、このような生理的なメカニズムが働くからです。




<香りは脳をよみがえらせる!>


私たちの体は、細胞の新陳代謝が常に行われていますが、中高年期に入ると再生される細胞数より、寿命を終えて死滅する細胞数の方が多くなり、体内の代謝が衰えていきます。

これが、いわゆる老化で、脳でも同じことが起こっています。

これまでは、脳の神経細胞は再生しないと考えられていましたが、神経科学の発達によって「老いても脳の神経は鍛えられる(脳神経の可塑性)」ということが判明しています。

そのカギとなるのが、神経細胞ニューロンを結びつける接合部「シナプス」です。 そして、「におい」が脳神経のシナプスに与える刺激が注目されているのです。


脳内の話は非常に難しいので、携帯電話の通信ネットワークの例えを引用しましょう。

「ちょっと前は場所によっては電話がつながりにくかったけれど、中継基地が増設されて不便を感じなくなりました。これがシナプスの接合部の増加です。また、電話が集中するとかかりにくくなりますが、回線の容量を増やして解決できました。これが、シナプスを通過する情報を繰り返すことによる増強です。外部から受ける刺激の中でも、においは脳内の「回線の増設、増強」を促すので、記憶に大きな影響を与えると考えられています」(塩田清二著「香りはなぜ脳に効くのか」NHK出版部)

老化で脳神経の回路が切れてしまっても、香りの刺激により新しいシナプスを増やし、神経細胞のネットワークが再生することで、脳内回路はよみがえることがわかってきました。


アロマについては、鳥取大学の神保太樹博士と浦上克哉教授の研究(2008年)から、アロマテラピーが認知機能の改善に効果があることがわかっています。

介護老人保健施設のアルツハイマー病を含む高齢者を対象に、28日間アロマ療法を実施したところ、抽象的思考力が改善され、やめると徐々に元の状態に戻ったのです。

特別養護老人ホームに入居する高度アルツハイマーの高齢者に行った同様の調査でも改善が見られました。 二つの調査研究から、特にアルツハイマー患者に特有の見当識(場所や時間、自分が何者であるかを把握すること)に改善が見られたとのこと。

香りは直接、海馬のある大脳辺縁系に伝わりますから、香りを刺激として与えることで、新しい神経細胞が作られることが促進され、自己に対する見当識の改善が見られたと考えられています。


次回は、もう少し具体的に認知症予防について、どんな精油がいいのか? どのように生活に取り入れられるのか?など、アロマの使い方についてお話しします。


<参考文献>

●<香り>はなぜ脳に効くのか―アロマセラピーと先端医療(塩田清二著・NHK出版部)

●健康長寿ネット・認知症のアロマ療法(公益財団法人健康長寿科学振興財団HP)

●認知症とアロマセラピー(鳥取大学発ベンチャー(株)ハイパーブレインHP)

●公益社団法人アロマ環境協会HP


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