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執筆者の写真ミウラ

脳のケア③—難聴と上手に付き合う

更新日:2023年6月7日

国の予測では、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症になると言われているようです。

個人的には驚くような数字ではなく、そうだろうなと思います。長寿が実現できている結果とも感じます。

これまでに身近では夫の祖母、父、母、私の父、母の5名を見送りましたが、最後に認知の衰えがあったのは2名。疑いと診断されながら、他の病気で亡くなったのが1名。

私にとっては、認知症は決して自分と遠い病気ではありません。


今現在の医療でわかっていることは、認知症に特効薬はないので治る病気ではないこと、進行を遅らせる薬はあること、認知症に似た症状で治せる病気があるということ。

そして、発症する前に予防できることがあるということです。

ブログによる「脳のケア」の連載では、予防できることにいくつかスポットを当てます。


2020年、世界5大医学誌の1つ「ランセット」では、「12の認知症の原因を対策することで、罹患する確率が4割減る」と言及しました。

具体的な12の項目は、以下の通り。

(1)教育(2)難聴(3)高血圧(4)肥満(5)喫煙(6)うつ病(7)社会的孤立 (8)運動不足(9)糖尿病(10)過度の飲酒(11)頭部外傷(12)大気汚染


また、WHO(世界保健機関)が脳の機能を維持するために推奨しているのは、運動、禁煙、バランスのよい食事など。ほぼ生活習慣病の予防対策と同じです。


大気汚染など根拠がよくわからない項目もありますが、多くは納得です。

特に、(2)の難聴と(6)うつ病、(7)社会的孤立に相関関係があると感じました。


一昨年に亡くなった母の難聴について、サポートした経験から感じたことをお話しします。


私の母は76歳で夫(私の父)を亡くしてから、喪失感で少しずつ元気がなくなりました。

父の介護前には毎週、茶道とお習字、ちぎり絵のお稽古に通っていましたが、再開する気にもならず意欲をなくしていました。

そのうち耳が遠くなり、私の勧めで補聴器を購入しました。

しかし、健康な耳と同じように聞こえると思ったものの、思ったような効果が得られません。

補聴器は環境音もすべて拾ってしまうため、雑音やハウリング音が耐えられなかったのです。聴きたい音を自然に聞き分けられるように脳を慣らすには、少し時間がかかるそうです。母はそれに適応できませんでした。何度も付き添って調整に出かけ、係の方からの説明も受け、違うタイプを買い替えたりもしましたが、ダメでした。


補聴器は慣れる人と慣れない人に分かれます。

新しいことに適応しやすい性格や、その人の意欲にも大きく関係すると感じます。

聞こえないと困るという気持ちが強い方は、聞こえないより聞こえたい気持ちが勝ちます。人と関わりたい、情報を得たいという意欲が勝るからです。

当時の母はうつ的な症状もありましたから、社会的にも孤立してしまい、付けてもすぐに外して音のない世界にこもっていました。

その結果、外部と遮断され、認知の機能も衰えていきました。


「認知症は予防が9割」の著者である森勇磨先生は、加齢で耳が遠くなるのは仕方ないですが、聴力の低下は脳機能の低下につながると警鐘を鳴らしています。


「中年期の聴力の低下は海馬や側頭葉の委縮につながるというデータがあります。(中略)脳は五感から刺激を受けているので、聴覚からの刺激が入ってこなくなると劣化が進んでしまいます。聞こえが悪くなることで脳への刺激が減り、記憶力も低下する可能性があるのです」

現在、日本の難聴者で補聴器をつけている割合は、たったの14%とされています。

それほど不便を感じていないと言う人が多いらしく、母のように購入したけれど使いたくない人など、理由はさまざまのようです。

難聴が脳に与える影響を考えると、私自身は、耳が遠くなったら即刻補聴器を購入しようと決めています。


現在聞こえに問題のない方も、イヤホンを使う場合には注意が必要です。

「イヤホン難聴」が若年層に増えています。

多くのオーディオ機器の最大音量はだいたい100~120㏈程度ですが、その80%の音量で長時間イヤホンを使った場合、難聴になるリスクが高くなります。

イヤホンで動画視聴や、音楽を聴く習慣のある方は、音量を60%程度に留めて聴くようにし、ノイズのある環境下ではノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使うことをお薦めします。

ある耳鼻科医の先生から聞いた話ですが、聴力のためには、イヤホン使用を一日45分以内にした方がよいという説もあります。


<参考資料>「転ばぬ先の杖・認知症予防特選集」(長谷川嘉哉著)

クロワッサンオンライン「物忘れと深く関わっているワーキングメモリとは?」

「認知症は予防が9割」(森勇磨・マガジンハウス新書)






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